文学 美術

禅語の本の表紙の湖がNYのどこかを探った。

2020年4月26日

対訳 禅語と墨蹟』 谷 耕月・嶋野栄道 著,  朝山一玄 訳

  • 著者: 谷 耕月・嶋野栄道 著,   朝山一玄 訳
  • 出版社: 淡交社
  • 発行日: 2012年2月8日
  • 版型: 大型本
  • 価格(税込): 大型本: 絶版

 

大型本で美しい装丁

私は古書で本書を入手したのだが、ちゃんと箱付きで箱から出すと美しい装丁に息をのんだ。それが上の写真である。

霧が立ち込める湖の桟橋の上で、禅僧ふたりが湖面に向って合唱礼拝している。なんと美しい光景であろうかと思った。

景色からすると、長野県あたりの湖なのではなかろうか、ひょっとしたら長野の仁科三湖の木崎湖だろうか、とかつて行ったことがある景色を思い浮かべながらハードカバー表紙を開くと、表紙の裏側に日本語と英語の両方で次のように書いてあった。

「紐育(ニューヨーク)湖畔の両老師(撮影/湯川晃敏)

"The Authors at the New York Lake"」

 

つまり、桟橋の上で礼拝する二人は本書の共著者であるということなのだが、マンハッタンに住んでいた私も"the New York Lake"という湖は聞いたことがなかったのでGoogle Mapsで検索してみたが、わからなかった。マンハッタンはニューヨーク州でも一番南に位置するので、おそらく、ニューヨーク州の北部の方にある湖なのだろうと推測した。

 

米国に深い縁を持つ二人の老師

共著者の履歴を最後のページで読んでみると、次のように書いてある。

 

谷 耕月(霧隠軒)

1931年、和歌山県に生まれる。正眼寺専門道場において梶浦逸外老師の下で参禅弁道、その法を嗣ぐ。正眼短期大学学長。1960年代後半に米国に二年間滞在。

 

嶋野栄道(無位室)

1932年、東京に生まれる。滝沢寺専門道場において中川宋渕老師の下で参禅弁道、その法を嗣ぐ。ハワイ大学に学び、現在はニューヨーク禅堂正法寺(マンハッタン)ならびに大菩薩禅堂金剛寺(ニューヨーク北部)師家。

 

以上のように記してある。

嶋野栄道老師の「大菩薩禅堂金剛寺(ニューヨーク北部)師家」というのを見て、再度、Google Mapsで"New York Daibosatsu zen Kongo temple"と入力して検索してみると、今度は場所が出てきた。

マンハッタンから直線距離で170kmほど北方のその写真を見ると、まるで日本にあるような立派な禅寺の写真がアップされていた。

地図にズームインしてみると、この禅寺の周囲10キロ四方には、10ほどの小さな湖が点在していることがわかった。そのうち最も近いのは、禅寺の西1.2kmにある直径2百メートルの丸い湖だ。しかし、この丸い湖には禅寺からの小道さえも見当たらないし、名前さえもついていない湖だ。

次に近いのは、禅寺から北方3キロほどのところにBeecher Lakeという名のついた湖がある。ここは丸い湖よりは離れているが車で行ける道があるし、もしかしたら、本の表紙の湖はこのビーチャー湖なのかもしれないと思った。

そこで今度は、Google Earthを使って、Beecher Lakeを見てみた。

Google Earthを拡大しながら湖の周りを慎重に見ていくと、この湖畔にたったひとつだけ桟橋が作られているのを見つけた。

ビーチャー湖周辺には森の中を除いては湖のほとりには家が一軒しかないので、桟橋はその家のものだ。桟橋の近くの木の下には、小さなボートが数艇陸に揚げて置いてある。サイズからみて、青いやつは10フィートのディンギーだろう。雨水がコックピットに溜まらないように、ひっくり返して船底が上になっているようだ。

(写真出典: Google Earth)

桟橋のサイズを測ってみると、長さ5メートル、幅1.6メートルであるということがわかった。それは、木製の桟橋らしきもので、木材間の隙間が縞模様になって見える。幅1.6メートルというのは、サイズ的にも二人の老師が並び立つ表紙の桟橋にきわめて近いものだ。

次に、この桟橋から対岸までの距離を見てみる。表紙写真にも霧にけぶる桟橋の向こう岸が写っているので、桟橋から対岸までの距離は場所を特定するのに役立つはずだ。

この桟橋から対岸までは、測ってみると170メートルであった。

表紙の写真は霧にかすんでいるので対岸がかなり遠くに見えるが、表紙写真をよく見てみると、対岸の木々の大きさや、木々の葉の形がかろうじてわかる程度の距離であることを勘案すると、170メートルというのは、表紙写真の距離感にきわめて近いと思われた。

ここに至って、私は、老師二人がこの場所、ビーチャー湖のたったひとつだけあるこの桟橋から礼拝されていたのだということをほぼ確信した。霧が立ちやすいのは朝なので、おそらくは日の出前後の時間に、お二人はこのビーチャー湖の桟橋に立ち、日が出る対岸の東方に向って礼拝されていたのだと思った。その瞬間、私は、このニューヨーク北部の山中にある、小道も行き止まりのこの湖で、礼拝する老師二人の後ろから自分も合掌礼拝している疑似体験をしたのであった。

 

(photo by Masakazu Ishikawa)

 

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石川 雅一

石川 雅一

 東証ペンクラブ 会員。学校法人評議員。 元日本放送協会で国際報道に従事。アフガニスタン内戦、カシミール内戦、パンチャヤト大暴動( ネパール)、湾岸戦争、アメリカ航空宇宙局(NASA)、国連安全保障理事会、ニューヨーク市警、米国核廃棄物、ロスアラモス国立研究所、米国海軍、米加漁業紛争、京都の歴史文化伝統産業などを取材。国際機関アジア太平洋放送開発機構講師(JICA専門家)としてクアラルンプールでアジア各国の放送局のジャーナリストを育成指導。金融市場分析のテクニカルアナリストとして日本の全産業三千数百社の上場企業のテクニカル分析をダイヤモンド社で三季にわたって完遂。  早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程中途退学。早稲田大学大学院商学研究科専門職学位課程修士(研究科長賞受賞)。MBA( Le Cordon Bleu; Global Service Business, WBS)。Certified Financial Technician(CFTe Ⅱ)。 一級小型船舶操縦士、剣道初段、趣味は能楽。

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