仏教 哲学/思想

司法修習生たちに山田恵諦・天台座主が語った深~い法話

2020年8月16日

『生きる 生かされる』 山田恵諦 天台座主 法話,  西川 勇 写真

  • 著者: 山田恵諦(やまだ えたい) 天台座主(てんだいざす) 法話(聞書),  西川 勇 写真
  • 出版社: 毎日新聞社
  • 発行日: 1993年10月10日
  • 版型: 単行本
  • 価格(税込): 単行本: 絶版

 

数え年99歳で遷化した天台座主の味わい深い法話

本書の帯には、「山田恵諦座主(やまだえたい ざす)は、平成6年に、数え年で100歳を迎える」と書いてあるが、実際には山田恵諦座主は100歳になる手前で数え年99歳で遷化(せんげ)された(お亡くなりになった)。明治28年に兵庫県で生まれ、10歳で出家して16歳で比叡山に入られた。その後、天台宗西部大学を卒業。天台宗勧学院院長や延暦寺執行を経て第253世天台座主に就任し、20年間にわたり座主を務めた。全日本仏教会会長に就任し、世界の七大宗教のリーダーたちを比叡山に集めて世界平和を祈願するなど、きわめて活動的な天台座主だった。

本書の構成は、6ページから40ページまでが写真集になっており、座主の近影や比叡山での祈願法要や法華大会(ほっけだいえ)の様子などの写真が並んでいる。41ページから103ページまでが山田恵諦座主の法話の聞き書き(ききがき、または「聞書」:もんしょ)となっている。法話とその相手と場所の次第は次のようになっている。

  1.  「生きる」とは: (平成4年: 平安ライオンズクラブ 京都国際ホテル)
  2.  「いかす」とは: (平成3年: サンパークヤマダストア20周年記念 兵庫県太子町)
  3.  直観と想像: (平成4年: ワタリウム美術館 東京都渋谷区)
  4.  写経の功徳: (平成4年: NHK学園 比叡山延暦寺会館)
  5.  「巡礼」について: (平成4年: 産経旅行社 比叡山延暦寺会館)
  6.  文化と因・縁・果: (平成3年: 福崎町文化センター 兵庫県神崎郡)
  7.  「教育」について: (平成4年: 駒込学園 東京都文京区)
  8.  三つの心: (平成4年: 山下元利婦人後援会 比叡山延暦寺会館)
  9.  佛の心 人の心 ── 看護婦さんへ ── : (昭和63年: 日本看護協会近畿地区看護研究学会 大津市民会館)
  10.  「裁く」とは── 司法修習生へ ── : (平成3年: 大津家裁 比叡山延暦寺会館書院)

司法修習生への法話

上記の法話の相手を見てもわかる通り、法話の相手は企業経営者あり、現代美術関係者あり、教育者あり、看護師あり、司法修習生ありと多彩である。その様々な相手に合わせて、山田恵諦座主は話す内容をことごとく変えて来ている。「誰に呼ばれても、どこに呼ばれても、いつも同じ話しかしないよくある有名講演者」というのとは明らかに違う。そんな山田恵諦座主の変幻自在な姿に、筆者(書評者)は、観音菩薩の姿を思い出す。それは、比叡山が根本経典とする法華経、その法華経の「観世音菩薩普門品第二十五」には、衆生のあらゆる人々に対応して、観音菩薩が自由自在に三十三身に変化することが書かれているからである。時には男性になり、または女性になり、そして時には仏の姿にもなってもっとも救いやすい姿で衆生を救うのだという。だから、そんな観音菩薩の変幻自在な姿が、話す相手によって自在に内容を変える山田恵諦座主と重なって私には見えたのである。

司法修習生の法話では、国家試験合格後に2年間の司法修習生の期間ということと、比叡山で学校卒業後に3年間の山の中での外界との連絡を絶った修行三昧ということとを比較して話し始めている。

「私どもの修行は、作法の行い方と心得のあり方だけを教えまして、そのほかは皆自分で行動していくということになっております。修行の間に山を毎日休まずに巡ったり、百日ずつ特別な行をしたり、心と体の修行をさせるようにしております。3年たちますると、世間の方々と比較をして常識的には遅れてみえますけれど、学校を卒業した者と3年間修行した者を比べますと明らかに違ってみえます。後から考えてみますと、40、50歳くらいになって、指導をしなければならない立場になったとき初めて、3年間の修行の効果が出てきまして、後の者の修行を指導できるというわけです」

 

心と体の修行はなぜする必要があるかということについては、山田恵諦座主は次のように述べている。

「理論と現実とを、どう合わせることが一番大切なのかということを考えてみますと、理論のほうはすぐに分かるのですが、現実のほうがなかなか同じようには理解ができないようです。それで理論を離れて、現実の生活に没頭してみるというのが、この3年間の修行ということになっているのであります。・・・いったん修行に入りまして2年目くらいになると、自分自身の自問自答ができるようになってきまするから、決して無駄ではないと思います。たぶん皆様方も自問自答なさる時間が、割合に多いのではないかと思います。学校で研究なされたことと、現実とを合わせますとどうしてもそこに矛盾があり、どちらが本当かということになってきます」

 

法話の中では、かつて、河合信太郎という検事正が山田恵諦座主を訪ねてきた時のエピソードにも触れている。「自分が一つ誤ったならば、この人を誤らすかもしれない。同時に、自分に過ちがあった時には世の中が悪くなるかもしれない」と河合検事正が抱えていた懊悩を山田座主に語り、その懊悩を抱えながらいつも冷静さをもって公正な考察ができるように、山田恵諦座主に「照干一隅」(一隅を照らす)の揮毫を求めたのであった。

また、戦時中に或る判事が自分の立場上「闇物資」を入手できずに配給制度だけでそれよりほかに家族を食べさせる手立てを講じなかったために寿命が縮まったという事例にも触れた。その制度ということのあり方が現実と沿うか沿わないかということが一番大事なことだから、たくさんの制度を知っておいて、この人にはこれよりはこれのほうがいいのではないかというふうに考えてもらいたいと司法修習生に述べている。

「いかにすれば、第三者の立場に立ちうるかということを、宗教はやかましくいいますが、まずは、第三者の立場に立って、甲と乙を比較せよ。甲に中心をして乙を見たら、必ず甲だけでなく、乙にも中心を置いて見ると、また変わって見える。そこのところが一番難しいことなのです」

 

山田恵諦座主は、ひとつの新聞だけしか見ないことも戒めて言う。同じニュースでありながら、新聞によって違いがあるから、新聞も一つでは駄目で、三つ四つの新聞を見る必要があるという。物は見る角度によって形が違う。新聞社によっては、上から眺めたことしか書かない社もあれば、横からの眺めしか書かない社もあると山田座主は言う。

昔の闇物資と配給制度のことに触れたかと思うと、直近の証券会社の補填の問題にも触れている。数字を大きくすることが一番に自分の手柄になることなんだという一つの理念から、補填することが正しいか不正かということが判断の外になってしまっていると山田座主は言う。だから世の中の流れをはっきり認識するだけの常識を持つということが一番大事だと述べている。

また、「裁く」ということについては、子供を叱るよりも褒めるほうが重要なのと同じように、犯罪者に対しても、その犯罪を犯した人間についてどこか「褒める」場所はないかと探すことが重要だという。「今回のことは犯罪は犯罪だが、あなたの性根から出たことではないと思う」というと、その人の受け方も素直にできて、決着を喜んで受け入れる結果になるのではないかと山田座主は言う。

「褒めようという姿勢が、裁判所にあるかないかということなんですね。今までは、どのようになしてこられたかは存じあげませんけれど、私はそれが一つの道だと思います。本人に反省させる手だてを講じてやれると、お説教すること以上に働くと思います」

 

山田恵諦座主の法話『生きる生かされる』

 

石川雅一の英書: "Mount Hiei" 『比叡山』

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 東証ペンクラブ 会員。学校法人評議員。 元日本放送協会で国際報道に従事。アフガニスタン内戦、カシミール内戦、パンチャヤト大暴動( ネパール)、湾岸戦争、アメリカ航空宇宙局(NASA)、国連安全保障理事会、ニューヨーク市警、米国核廃棄物、ロスアラモス国立研究所、米国海軍、米加漁業紛争、京都の歴史文化伝統産業などを取材。国際機関アジア太平洋放送開発機構講師(JICA専門家)としてクアラルンプールでアジア各国の放送局のジャーナリストを育成指導。金融市場分析のテクニカルアナリストとして日本の全産業三千数百社の上場企業のテクニカル分析をダイヤモンド社で三季にわたって完遂。  早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程中途退学。早稲田大学大学院商学研究科専門職学位課程修士(研究科長賞受賞)。MBA( Le Cordon Bleu; Global Service Business, WBS)。Certified Financial Technician(CFTe Ⅱ)。 一級小型船舶操縦士、剣道初段、趣味は能楽。

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