哲学/思想 自己啓発

メジャーリーグの大谷翔平が敬慕する天風

2020年5月6日

天風瞑想録 運命を拓く』 中村天風 著

  • 著者: 中村天風 著
  • 出版社: 講談社
  • 発行日: 1998年6月15日
  • 版型: Kindle版,    文庫
  • 価格(税込): Kindle版: ¥649-,    文庫: ¥649-

 

 

メジャーリーグの大谷翔平が敬慕する天風

前回の書評では、哲人として辻説法を通じて明治以降多くの人々を魅了し続けてきた中村天風(なかむら てんぷう, 1876年~1968年)の講演録『成功の実現』について紹介した。

『成功の実現』は書価が1万円以上の高価であるが、今回は、初めて中村天風の本を手にしたいという方のために、安価な文庫本を紹介することとする。

前回、『成功の実現』の書評でも触れたが、中村天風の門下には、大日本帝国連合艦隊の東郷平八郎元帥、原敬首相、尾崎行雄元法相、浅野セメント創業者の浅野総一郎、東京大学の三島徳七名誉教授、野村證券元社長の飯田清三、馬術金メダリストの西 武一、日立製作所元社長の倉田主税、山本五十六元帥、山本英輔海軍大将、重宗雄三元参議院議長、左藤義詮元大阪府知事、歌舞伎役者の第七世 松本幸四郎など、各界の多くの名士が名を揃えていた。

最近では、メジャーリーグ(MLB)の ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手が、中村天風にぞっこんだということも伝え聞いている。

 

天風が受けた試練

1878年(明治9年)、中村天風(本名は中村三郎)は大蔵省抄紙部長をしていた父中村祐興(すけおき)、母テウの三男として東京の王子で生まれた。父は九州の柳川藩主一門の出だったため、幼いころは乳母から「若さま」と呼ばれていた。その後、九州福岡の修猷館に入学する。

中村天風(中村三郎)は16歳で福岡の修猷館を退学処分になっているが、この退学の理由は、柔道の試合で惨敗させた相手校から怨恨の闇討ちに遭い、出刃包丁で襲撃してきた相手を正当防衛ながら殺してしまったことが原因という。修猷館を退学になった中村三郎(のちの天風)は、親族で農商務省次官をしていた前田正名男爵の紹介で、頭山満(とうやまみつる)の政治結社 玄洋社に預けられた。この他校生徒の命を奪ってしまった事件も含めて、中村天風は、以下のような多くの試練に直面した。

  •  16歳の時に闇討ちしてきた熊本の学校の生徒を殺してしまった。正当防衛は認められるも退学。
  •  日露戦争当時、軍事探偵として満州方面に潜伏中にコサック騎兵から捕縛され、スパイとして死刑宣告を受ける。
  •  銃殺刑の寸前で、日本軍の仲間が投じた手榴弾攻撃により、九死に一生を得る。
  •  万里の長城で狙撃を受け、飛び降りて逃げるも重傷を負う。
  •  重症の後遺症で強度のめまいと、視力障害を負う。
  •  帰国後に肺結核で死にかける。
  •  エジプトのカイロでヨガ聖人カリアッパ師と出会い、同師についてヒマラヤのカンチェンジュンガに入り、二年数か月にわたり修行する。

 

『天風瞑想録 運命を拓く』について

本書の刊行のいきさつについては、巻末の「付記」に天風会の方とみられる堀尾正樹という人が書いているが、本書の「原典」となったのは、この堀尾正樹氏が編にあたった『天風瞑想録』なのだという。『天風瞑想録』は、中村天風が天風会の夏期講習会において自らの悟りを中核として、宇宙、生命、人間、人生について講述したものを、堀尾氏が15年かけてまとめ上げたものだという。ということは、本書は天風師が自ら筆を執ったものではなく、「聞書」という位置づけになる。それでも、本書に編者の名を入れていないのは、あくまでも天風師の言葉を忠実に記述したもの以上のなにものでもないと考えた上での奥深い配慮であったのではなかろうかとも思う。

本書の構成は、まず序章として「朝旦偈辞(ちょうたんげじ)」という真理の言葉が書かれ、そして次のような13章が立てられている。

  1.  生命の力
  2.  人生を支配する法則
  3.  潜在意識とその性能
  4.  言葉と人生
  5.  大いなる悟り
  6.  人生と運命
  7.  人間の生命の本来の面目
  8.  人生の羅針盤
  9.  第一義的な活き方
  10.  恐怖への戒め
  11.  勇気と不幸福撃退
  12.  理想と想像
  13.  一念不動

中村天風の人生哲学において中心命題と思われる言葉のひとつだけを、本書から次に引きたい。

 

「何事においても、そのときの心の態度が、成功を生み、また失敗にも追いやる。ちょっとしたことでも例外ではない。紙に一本の線を引くにも、丸を画くにも、心の在り方いかんですぐ乱れがきてしまうのである。・・・・・・心身を統一し、人間本来の面目に則した活き方、どんなときも、< 清く、尊く、強く、正しい積極的な心 >であれば、万物創造の力ある神韻縹渺たる気と、計り知れない幽玄微妙な働きを持つ霊智が、量多く人間の生命の中に送り込まれてくる」

・・・・・・・・・・・・・

 

類まれな哲人として辻説法を通じて明治以降多くの人々を魅了し続けてきた中村天風の魅力は、その死後50年以上経った今も決して色あせていない。

中村天風の本を読んだことはないがその哲学にとりあえず触れたいという方には、手軽な文庫本の本書は絶好の入門書になることだろう。

 

文庫本 

 

Kindle版 

 

 

飄々とした語り口で堂々とした天風哲学

 

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石川 雅一

石川 雅一

 東証ペンクラブ 会員。学校法人評議員。 元日本放送協会で国際報道に従事。アフガニスタン内戦、カシミール内戦、パンチャヤト大暴動( ネパール)、湾岸戦争、アメリカ航空宇宙局(NASA)、国連安全保障理事会、ニューヨーク市警、米国核廃棄物、ロスアラモス国立研究所、米国海軍、米加漁業紛争、京都の歴史文化伝統産業などを取材。国際機関アジア太平洋放送開発機構講師(JICA専門家)としてクアラルンプールでアジア各国の放送局のジャーナリストを育成指導。金融市場分析のテクニカルアナリストとして日本の全産業三千数百社の上場企業のテクニカル分析をダイヤモンド社で三季にわたって完遂。  早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程中途退学。早稲田大学大学院商学研究科専門職学位課程修士(研究科長賞受賞)。MBA( Le Cordon Bleu; Global Service Business, WBS)。Certified Financial Technician(CFTe Ⅱ)。 一級小型船舶操縦士、剣道初段、趣味は能楽。

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