MBA 経営学

企業経営を巧く回すために必要な要素の構築

2020年4月16日

ビジョナリーカンパニー 弾み車の法則』 ジム・コリンズ著,   土方奈美 訳

  • 著者: ジム・コリンズ著,  土方奈美 訳
  • 言語: 日本語版
  • 出版社: 日経BP
  • 発行日: 2020年1月14日
  • 版型: Kindle版、 単行本
  • 価格(税込): Kindle版: 1,188円  単行本:1,320円

 

企業経営をうまく回すために必要な要素とは何か

本書の表紙カバーには、大きく「ビジョナリーカンパニー」という文字が「弾み車の法則」という文字の前に陣取っているが、英語原書のタイトルには「ビジョナリーカンパニー」の文字はない。原書のタイトルは、単に"TURNING THE FLYWHEEL"(ハズミ車を回せ)である。日本語版で「ビジョナリーカンパニー」という文字をつけた理由は、超大ベストセラーになった前作『ビジョナリーカンパニー』の威光を本書『弾み車』にかぶせたいという出版社のマーケティング戦略的意向があったのだろうと推測される。

本書著者のジム・コリンズ(Jim Collins)はスタンフォード大学でMBAを取得したのちに大手コンサルティング会社マッキンゼー(McKinsey & Company, Inc.)に入った。その後に独立して、自らの経営学研究所を設立し、大手企業に対する経営コンサルタントとして活躍してきた。

2001年のITバブル崩壊後でIT業界が深刻だった時期に、著者のコリンズは、アマゾン・ドットコムの創業者ジェフ・ベゾスや経営幹部たちと会い、「アマゾンは復活できるのかどうか」について話し合ったという。コリンズがそこで述べたのは、良い会社から偉大な会社への飛躍は、たった一つの決定的行動や壮大な計画やイノベーションといった単独の要素がもたらすのではなくて、連関する様々な要素から成る一大構成を回転させ続けることであるということだった。それは、たとえて言うならば、巨大で重い「ハズミ車(flywheel:フライホイール)」を回しつづけるようなものだとコリンズは言う。その大きく重い「弾み車」は、力いっぱい押してもほんの数センチ前へ動くだけだ。しかし、さらに力を込めて押し続けると、弾み車は少しだけ速く動くようになる。数回転、十回転、数十回転、百回転、千回転、一万回転、十万回転、・・・すると、ある時点でブレークスルーが起きるという。止めようもなく勢いがついた弾み車は、今度は飛ぶように回転していくのだとコリンズは言う。

実はコリンズは、数理科学が経営学よりも先の専攻であり、経営学修士(MBA)の他に、数理科学博士でもある。数理科学的な発想が、コリンズの経営学には背景として如実に垣間見られるように私(書評者)には思われる。

 

実際の経営事例

アマゾンの場合は、次のような形の「弾み車」になっているという。(本書では「弾み車」の丸い形に図示されている。)

  1.  より多くの商品の価格を下げる
  2.  サイトの訪問客数が増加する
  3.  サードパーティの売り手が集まる
  4.  品揃えが広がり、配送網が充実する
  5.  固定費あたりの売上が伸びる
  6.  (1.) より多くの商品の価格を下げる (1. に循環する)

こうした優れた弾み車を作って回転させていくためには、それぞれの企業のそれぞれのビジネスモデルと事業環境を視野広く勘案していくことが必要だろうと思われる。

「弾み車に不可欠な構成要素は何か。最初に来るのはどの要素か。次はどれか。それはなぜか。構成要素が多すぎないか。抜けているものはないか」というようなことを、みる必要があるとコリンズは述べている。ジグソーパズルを組み合わせるかのように構成要素を連結させて戦略構築をすることが必要ということである。

たとえば、インテルの「弾み車」は次のように説明されている。

  1.  顧客が熱望する新たなチップを設計する
  2.  競合企業が追いつく前に高価格で販売する
  3.  単位当たり原価を下げる
  4.  競合企業が出てきて価格が下落しても利益を確保する
  5.  利益を研究開発に再投資する
  6.  (1.) 顧客が熱望する新たなチップを設計する (1. に循環する)

コリンズは、効率的な「弾み車」は、アマゾンやインテルのような企業活動だけでなく、優れた社会運動やスポーツのトップチームにもみられるとしている。

本書はハードカバーではあるものの、たった91頁とページ数も比較的少なく、フォントもさほど小さくない。だから、読者も本書を読了するまでにさほど長い時間はかからないだろう。しかし、本書はすぐにまた見返したくなる。何度も本を開きなおして弾み車の例を見ては考え直したくなるのだ。企業経営を困難から持ち直して激しい競争に勝っていくために、自分の会社はどのような「弾み車」を構築したらよいのか?

本書が「フライホイール」という説得力あるシンプルな概念によって問いかける意味は深く大きい。

企業経営者や経営幹部が、自社の経営について「再考するためのノウハウ」が、本書にはちりばめられている。

 

『弾み車の法則』単行本 

『弾み車の法則』Kindle版 

『ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則』 Kindle版 

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石川 雅一

石川 雅一

 東証ペンクラブ 会員。学校法人評議員。 元日本放送協会で国際報道に従事。アフガニスタン内戦、カシミール内戦、パンチャヤト大暴動( ネパール)、湾岸戦争、アメリカ航空宇宙局(NASA)、国連安全保障理事会、ニューヨーク市警、米国核廃棄物、ロスアラモス国立研究所、米国海軍、米加漁業紛争、京都の歴史文化伝統産業などを取材。国際機関アジア太平洋放送開発機構講師(JICA専門家)としてクアラルンプールでアジア各国の放送局のジャーナリストを育成指導。金融市場分析のテクニカルアナリストとして日本の全産業三千数百社の上場企業のテクニカル分析をダイヤモンド社で三季にわたって完遂。  早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程中途退学。早稲田大学大学院商学研究科専門職学位課程修士(研究科長賞受賞)。MBA( Le Cordon Bleu; Global Service Business, WBS)。Certified Financial Technician(CFTe Ⅱ)。 一級小型船舶操縦士、剣道初段、趣味は能楽。

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