『アメリカの戦争の仕方』 ハリー・G・サマーズ 著, 杉之尾宜生・久保博司 訳
- 著者: ハリー・G・サマーズ 著, 杉之尾宜生・久保博司 訳
- 言語: 日本語版
- 出版社: 講談社
- 発行日: 2002年3月14日
- 版型: 単行本
- 価格(税込): 単行本: 絶版
あいまいな戦略で苦悩する軍
本書は、元米国陸軍大学校教授で軍事アナリストとして著名だったハリー・G・サマーズ(1932~1999)による書”THE NEW WORLD STRATEGY, A Military Policy for America's Future”の和訳版である。
サマーズは言う。「現代のローマ帝国、それはアメリカである。ローマ帝国が単にヨーロッパと地中海を支配したのに対して、アメリカは全世界を支配する軍事力をもっている」
1915年(日本では大正4年)に米国海軍のノックス海軍少佐(のちに准将)は、戦略および戦術を攻勢とするか防勢(持久的防御戦)とするかを決めなければならないと主張した。それを決めなければ、霧の中を彷徨う船のように、自分の現在位置をつかめなくなってしまうというのだ。
しかしながら、サマーズが言うには、クリントン政権が「軍事政策には平和維持の要素も含めるべきだ」と主張してから、アメリカの軍隊は本来の道を見失ってしまったという。政治が軍隊に対して、武力戦と平和維持の両方を課すようになったからである。「平和維持」という美しい言葉はとても耳に聞こえがよい。しかし、そもそも軍隊というものは、「平和維持」のためには設計されて出来てはいないのである。
三位一体(さんみいったい)の戦争
プロイセンの軍事理論家で近代的戦略論を打ち立て、世界中の政治家やエンゲルスやレーニンらにも影響を与えたと言われるカール・フォン・クラウゼヴィッツ(クラウゼビッツ)は、戦争は三位一体(さんみいったい)でなければならないと主張していた。三位一体の3つの要素とは、次のような要素である。
- 国民
- 司令官とその軍隊
- 政府
この三つの要素が合致していなければならず、どれか2つだけの関係に固執するならば、現実とまったくかみ合わなくなり、まったく役立たない(その戦争は水泡に帰す)とクラウゼヴィッツは言っているのである。
三位一体の原理は米国憲法のなかでも謳(うた)われているとサマーズは言う。すなわち、前文には次のように書かれている。
「常備軍だけでなく、我々合衆国国民は共同防衛に備える義務がある」・・・
次いで、第1条第8項は議会に対して陸軍および海軍を創設し、その統制および支配の規則を制定し、戦争を委任する権限を与えている。
そして、修正第2項は次のように宣言している。
「十分に統制された市民軍は、自由国家の安全にとって必要である。武器を保持する国民の権利を侵害してはならない」
この目的のため、1792年の「市民軍法(Militia Act)」は18歳から24歳の自由人、白人、かつ身体健全なすべての市民をその所属州の市民軍に勧誘するよう求めているという。南北戦争のときに議会はこの憲法上の権限を使って徴兵制度を可決したし、第一大戦の時も第二次大戦の時も有効だったが、1973年にベトナム戦争が終わってから召集は中断した。しかし、共同防衛に対する市民の義務の観念は今も生きているという。
本書が出版された時点からほぼ20年間という時が過ぎ、世界情勢は大きく異なっている。この20年間で中国が軍事覇権を強力に拡大させ、崩壊した旧ソ連のロシアも軍事力を強化させてきた。しかし、本書を読むと、アメリカの戦争観がどのようにして醸成されてきたかが分かるだけに、その後の情勢変化があっても、本書のたぐいまれな有用性が失われることはないように思われる。