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原著を英国から取り寄せたら王立空軍大学の蔵書が届いた

"A Glossary of Political Terms"『政治用語集』 Edited by Maurice Cranston

  • 著者: Edited by Maurice Cranston. モーリス・クランストン編
  • 出版社: THE BODLEY HEAD (LONDON, SYDNEY, TORONTO)
  • 発行日: 1966
  • 版型: 単行本
  • 価格(税込): 絶版

 

『クランストン編 政治用語集』の原著

前回、「早稲田の政治学出版社:前野書店 閉店を残念に思う」の中で、モーリス・クランストン編『政治用語集』を取り上げた。

この『政治用語集』の原著が欲しくなり、調べてみると、日本の古書店ではこの半世紀以上前の絶版古書(英書)の価格になんと1万円近い値段がついていた。さすがにそれは高すぎると思い、米国のAmazon.comで調べてみると、英国のシェフィールドに近いLincolnの書店が本書を5ドル台で出品していた。日本までの送料が価格の二倍以上かかることになるが、1万円から比べたらだいぶ安くあがるので注文した。英国から二週間ほどで届いたが、パッケージを開けて本を見ると、50年以上前の古書にしては意外ときれいな状態だった。ただ、表紙に「REFERENCE BOOK; Do not remove from the library」(参照本; 図書室からの持ち出し禁止)と「禁帯出」ラベルが貼られているので、どこかの図書館にあった本だということがわかった。

表紙を開けてみて驚いた。「見返し」(おもて表紙の裏側)に”ROYAL AIR FORCE STAFF COLLEGE”と書いたエンブレム入りのシールが貼ってあった。つまり、この本は、英国王立空軍大学の蔵書で禁帯出本だったのだ。

どこの図書館でも、蔵書を除籍することがあり、除籍をする基準としては主に次のようなことが挙げられる。

  • 装幀が破損したり、落丁がある場合
  • 本館と分館などで書籍に重複がある場合
  • 内容があまりにも陳腐化して時代遅れになった場合

本書の場合は、装幀もまだ綺麗で落丁もなく、「禁帯出」本なので重複の可能性も低い。また、確かに半世紀前の本で古いことは確かだが、哲学に関する普遍的な分野の本なので内容が陳腐化したということも考えられない。

 

英国王立空軍大学と戦略的リーダーの育成について

私自身、米国海軍の取材や戦場取材もしたことがあって軍事は嫌いな分野ではなく、英軍は取材したことはなかったものの、以前、カシオG-SHOCKでROYAL AIR FORCE(英国空軍)とのタイアップモデルを買ったことがあった。だから、今回、英国空軍大学の図書館蔵書が送られてきたのも何かのご縁かとも思った。そこで、英国王立空軍大学について少し調べてみた。

RAF(英国空軍)は1918年(大正7年)に設立されたが、その3年後にRAFのスタッフカレッジの設立準備のために指揮官が任命されて翌春にスタッフカレッジが始動したという。単なる操縦士の訓練学校とは異なって「大学」であるので、中尉以上の指揮官候補生がこのスタッフカレッジに入学して、将来司令部でRAFを指揮するための広い視野を涵養する目的のカレッジだったようである。

RAFのスタッフカレッジは、アンドーバー(Andover)やブラックネル(Bracknell)などがあり、何度か閉鎖や再開や再編が繰り返されたようだ。もしかしたら、本書は、そうした再編や閉鎖の時期に流出したものかもしれない。

RAFスタッフカレッジ自体ではないが、その並びである英国王立国防大学に留学された篠村靖彦氏が『海幹校戦略研究』(2019年1月号)に「英国王立国防大学における教育──戦略的リーダーの育成」という論文を載せていて、それを読んだが、「現下の国際情勢」、「将来の戦略環境」、「紛争の予防と解決」に関して、実に広範で深甚な講義と研修が行われている。篠村氏によれば、それぞれのセミナーで課題ごとに必読論文計2 本が事前に示され、毎回メンバーひとりがファシリテーターとして指定されて論文の要約と課題の概要を文書にまとめ、口頭でこれを発表した後、討論をリードすることになっているが、その課題には以下のようなものがあったという。

  • グローバライゼーションの利点は欠点を上回るか?
  • 気候変動のような環境問題は安全保障にとってどの程度重要な脅威か?
  • IMF,WTOや世界銀行のような機関は、国際システムにどのような影響力を及ぼすか?
  • 国連は国際機関たるべきか、それとも超国家的機関たるべきか?

英国王立国防大学のカリキュラムは、このように、国際政治、国際経済、社会文化、科学技術、国際法と倫理など、きわめて広範で深いのである。たとえば「国連は国際機関たるべきか、それとも超国家的機関たるべきか?」という課題などを考えるには、トマス・ホッブズやジョン・ロックにまでさかのぼって政治哲学の古典を参照してみたくなったり、平々凡々とした政治用語の真に深い意味を確かめたくなるかもしれない。そのような時に、本書のような『政治用語集』はどうしても必要になるはずだ。・・・これで、英国王立空軍大学の図書室に本書が置いてあった理由が何となくつかめた。

刺激的な古書を入手してしまった。

 

早稲田の政治学出版社「前野書店」閉店を残念に思う

 

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石川 雅一

石川 雅一

 東証ペンクラブ 会員。学校法人評議員。 元日本放送協会で国際報道に従事。アフガニスタン内戦、カシミール内戦、パンチャヤト大暴動( ネパール)、湾岸戦争、アメリカ航空宇宙局(NASA)、国連安全保障理事会、ニューヨーク市警、米国核廃棄物、ロスアラモス国立研究所、米国海軍、米加漁業紛争、京都の歴史文化伝統産業などを取材。国際機関アジア太平洋放送開発機構講師(JICA専門家)としてクアラルンプールでアジア各国の放送局のジャーナリストを育成指導。金融市場分析のテクニカルアナリストとして日本の全産業三千数百社の上場企業のテクニカル分析をダイヤモンド社で三季にわたって完遂。  早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程中途退学。早稲田大学大学院商学研究科専門職学位課程修士(研究科長賞受賞)。MBA( Le Cordon Bleu; Global Service Business, WBS)。Certified Financial Technician(CFTe Ⅱ)。 一級小型船舶操縦士、剣道初段、趣味は能楽。

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