『白蓮自選歌集』 柳原白蓮 著
- 著者: 柳原白蓮
- 出版社: やまとうたeブックス
- 発行日: 2018年3月2日
- 版型: Kindle版
- 価格(税込): Kindle版: ¥220-
華族出身の奔放で赤裸々な女流歌人
「白蓮(びゃくれん)」とは、雅号(がごう: 歌人や画人が持つ風流な別名)で、信奉する日蓮(にちれん)にちなんでつけたという。
本名は柳原燁子(やなぎわら あきこ)で、伯爵の父 柳原前光(やなぎわら さきみつ)と妾の芸者 りょうとの間に生まれた。前光は、出産の報を鹿鳴館で受けたため、華麗な鹿鳴館にちなんで、名前を「燁子(あきこ)」と名付けた。
伯爵の妾だった母は、元は江戸末期の二千石の幕臣 新見正興(しんみ まさおき)の娘だった。燁子(白蓮)の母方の祖父にあたる正興は、江戸幕府が日米修好通商条約を批准するための正使となって他の幕臣たちを率いて咸臨丸に乗り込み、ワシントンDCにまで出かけた人物だった。しかし、新政府軍との内戦と大政奉還で幕府が崩壊すると、正興は失意の中で病死した。正興の三人の娘の末っ子だった りょうは 一旦 他家の養女となったが柳橋の芸者置屋に売られて芸妓となったのだった。
だから、燁子は様々なDNAと経験を受け継いでいるのだろうと私には思える。伯爵の父からは京都の貴族 権中納言正二位の殿上人(てんじょうびと)だったみやびな家系の血、幕臣で江戸期の外交官として世界一周をした母方の祖父のサムライの血、そして、明治維新で朝敵となった旧幕臣の没落士族として、父さえも亡くして芸者置屋に売られた母の哀しみと母から伝わった花柳界の記憶。
赤裸々な白蓮の歌
伯爵家に生まれながらも、妾の子だった燁子はやがて9歳で零落した子爵家へ養女という名の嫁入りをさせられ、15歳で妊娠出産する。燁子を「妾の子」と見下す冷淡な夫に耐え切れず20歳で離婚。その後、女学校に入学し、幼いころから和歌の手ほどきをうけていた燁子は佐佐木信綱が主宰していた短歌の会に入門した。その後も炭鉱王との再婚と出奔、離婚、社会運動家との再々婚など、紆余曲折の人生を送った燁子の歌は、実に赤裸々で、時にセンセーショナルでさえある。
白蓮の三首を以下に引いて、筆を擱く。
緋桃(ひもも)さくゆふへは恋し我夫(わがつま)も
われを妖婦とのゝしりし子も
さなからにうつゝにこゝにあひなから
何のうらみもわかぬさひしさ
月に吸はれ潮に満干(みちひ)のおもひとや
かのわたつみの久しかる恋
白蓮自選歌集 Kindle版 柳原白蓮歌集(注釈付)Kindle版