『北朝鮮軍 世界最大の特殊部隊』 ジョゼフ・S・バーミュデス 著, 高井三郎 訳
- 著者: ジョゼフ・S・バーミュデス 著, 高井三郎 訳
- 出版社: 原書房
- 言語: 日本語
- 発行日: 1989年2月10日
- 版型: 単行本
- 価格(税込): 単行本: 絶版
- 改題改訂版は並木書房より2003年刊. ¥2,200-, タイトルは『北朝鮮特殊部隊』に変更. 装丁写真も変更.
北朝鮮特殊部隊についての最初にして最高の解説書
最初に断っておくが、本書は古い。1988年夏に、『ジェーン海軍年鑑』で有名な英国のジェーンズ社(Jane's Information Group)によって刊行され、翌1989年に和訳された本書が日本で出版された。著者のジョゼフ・S・バーミュデスは、西側有数の軍事アナリストで、現在も北朝鮮情勢についての情報分析を続けている。去年2019年には、北朝鮮が潜水艦から弾道ミサイルを発射したとの北の発表がなされた時も、バーミュデスは、潜水艦から実際に発射したのではないかもしれず、水深数メートルに置いたバージ船からミサイルを発射した可能性もあるという独自の見解を述べていた。
本書は、1989年に原書房から刊行されたが、その後2003年に、改題改訂版が並木書房より出版されている。タイトルは『北朝鮮特殊部隊』に改題され、装丁写真も上記のような赤表紙に緑の地図から、平壌での軍事パレードの写真に変更されている。改題改訂版は、¥2,200-で現在も入手可能である。
世界最大の特殊部隊
北朝鮮軍の平時兵力の15%にあたる12万人ほどが特殊部隊に割り当てられているという。米軍が不正規戦を本業とする北朝鮮の各種部隊を「特殊部隊」と呼ぶようになったのは、1980年代初期になってからのことだという。ちなみに、「不正規戦(unconventional warfare)」とは、以下の4つに区分される。
- ゲリラ戦
- 潜伏・脱出活動
- 転覆活動(反乱の助長)
- 特殊戦(暗殺、拉致、後方かく乱)
指導者と党による統制
国家のありとあらゆるものの統制は、最高指導者のもとにある。軍も例外ではなく、指揮統制は以下のようなプロセスを経る。
- 最高指導者の指針
- 指針を受けた軍事委員会が基本政策と戦略計画を決定
- 軍事委員会の下達を受けた人民武力省が参謀本部に下達
- 参謀本部は各部局と司令部を通じ、全部隊の作戦指揮をする
ソ連派と中国派の両立
興味深いのは、北朝鮮創立の歴史的な経緯とその地理的特性ゆえ、旧ソ連(ロシア)と中国と、両方の影響が北朝鮮の内部に及び、今もその両方の派閥があるという、バーミュデスの指摘である。それは、以下のようにそれぞれ呼ばれている。
- カブサンバン(甲山派): 旧ソ連(ロシア)派
- イエナンバン(延安派): 中国共産党派
甲山派: 旧ソ連派は、戦いの政治的側面の追求は最小限にとどめ、国家と軍の要求に応える軍事行動を重視するという。
一方で、延安派: 中国共産党派は、大衆の組織化、教育、宣伝と士気の高揚を戦闘以上に重視せよという伝統をもっているという。
1950年に北朝鮮の北緯38度線を越える南下によって始まった朝鮮戦争は、1953年に武力行使停止の休戦にいたった。しかしこれはあくまでも「休戦」であって終戦ではない。今も危うい緊張状態は続いている。
北朝鮮からの避難民の息子として生まれた文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領が北に対して融和的政策をとり続けてはいるが、西側から"Hermit_kingdom"(隠された王朝)と呼ばれる北朝鮮の動向を見る時に、本書は貴重な情報を与えてくれることと思う。