『エスセティクスのマーケティング戦略』 バーンド・シュミット & アレックス・シモンソン 著, 河野龍太 訳
- 著者: バーンド・シュミット & アレックス・シモンソン 著, 河野龍太 訳
- 言語: 日本語版
- 出版社: トッパン
- 発行日: 2005年7月14日
- 版型: Kindle版、 単行本
- 価格(税込): Kindle版: ¥1,800円、 単行本: 絶版
マーケティングにおける美学の重要性を提起
原書の題名は"Marketing Aesthetics: The Strategic Management of Brands, Identity, and Image"で、原題を直訳したとすると、『マーケティング・エスセティクス(マーケティング美学): ブランド、ID、イメージの戦略マネジメント』となる。
著者のバーンド・シュミット(Bernd Herbert Schmitt)は、コーネル大学で心理学博士となり、コロンビア大学ビジネススクールの教授になった。「カスタマー・エクスペリエンス(customer experience)」:顧客経験の研究で知られている。もともとの専攻が心理学であったことから、ビジネススクールで教鞭をとるようになっても、その着眼点はきわめてユニークで、顧客が心の中に抱く経験と心情を、企業はもっと重視しなければならないという主張で一貫している。
シュミットはエスセティクスを、ブランドを適切に表現し、感覚的な経験を通じて顧客を魅惑する、視覚的あるいはその他の感覚的なしるしやシンボルのことだと定義している。しかし、過去においては、著者が「不幸なことに」と言うように、マーケティングやマネジメントの研究においては、このような視覚的、あるいは感覚的なシンボルに関する分野の研究は、ほとんど無視されてきたという。本書の共著者であるシモンソンは、シュミットが助教授の時にコロンビアのビジネススクールの博士課程に入学してきた。そしてシモンソンはシュミットに質問した。パッケージングや色や小売りスペースに対する消費者の反応やその他の外観や雰囲気についての反応はアイデンティティーとの関連において研究されているのですかと訊いたのだ。シュミットは「いや、されていない」と答え、ここから二人の研究が始まったのだという。
ふたりはまず、マーケティング活動においてエスセティック(美学)に力を入れている。少なくとも優れている企業に着目した。アブソルート・ウォッカ、ギャップ、キャセイ・パシフィック、スターバックス、ナイキ・・・、優れた業績をあげ、先進的と思える企業は、エスセティクスにも力を入れていることに気づいた。
美学マーケティングの体系
エスセティクスのマーケティングは、異なった3つの分野から導き出されるという。
たとえば、次のそれぞれの分野は2つの要素に分割される。
- 製品やグラフィックデザイン・・・・・ ①機能、 ②形態
- コミュニケーション・・・・・ ①中心メッセージ、 ②周辺メッセージ
- 空間デザイン・・・・・ ①構造、 ②シンボル体系
上記の3つの分野における②がエスセティクスの分野だと著者は主張する。
企業のアイデンティティやブランドのアイデンティティは、慎重にコントロールされなければならない。しかし、アイデンティティ・マネジメントは、ブランド・マネジメントではないと著者は言う。なぜならば、アイデンティティ・マネジメントは、ブランド・マネジメントよりも、はるかに広範だからである。
美学の援用
人間の知覚の諸要素である、視覚、音、触覚、味と匂い といった項目のなかで、エスセティクスのマーケティングで最も重要な要素は、視覚である。すべての認識はほとんど目から重要な情報が飛び込んでくるのだ。
ここから、本書におけるマーケティングへの美学の援用が開始される。ブランドの形、製品の形、パッケージの形、形の意味とはいったい何なのか。形には様々な要素がある。大きさ、比率、角か丸か、シンメトリー(対称)か、アシンメトリー(非対称)か? 色は顧客にとってどういう意味を持つのか? 色の構成とはどんなものか? 色のカテゴリー構造とはなんなのか? 特権的な色とはなにか? 色の組み合わせへの反応はどんなものか? フォント、書体はどうか? 音はどうか?
スタイルにも次のような様々な次元がある。
- 複雑性・・・・・ ①ミニマリズム、 ②装飾主義
- 描写・・・・・ ①リアリズム、 ②抽象主義
- 動き・・・・・ ①動的、 ②静的
- 効力・・・・・ ①派手/強い、 ②落ち着いた/弱い
本書は、美術やデザインや芸術に興味がある人にとっては、たまらなく面白い本と感じられると思う。
ましてや、マーケティングや広告にも興味があれば、なおさらのことである。そういう方には、一読を勧める。