『東方見聞録』 マルコ・ポーロ 著, 青木富太郎 訳
- 著者: マルコ・ポーロ 著, 青木富太郎 訳
- 出版社: インタープレイ
- 発行日: 2012年12月21日
- 版型: Kindle版
- 価格(税込): 660円
世界三大旅行記のうち、最も空想要素が強い
「世界三大旅行記」とされる三書のうち、世間で一番よく知られているのはヴェネツィアのマルコ・ポーロ(1254~1324)の『東方見聞録』だ。
「世界三大旅行記」とは、これに、中国僧の玄奘(三蔵法師: 602~664)がインドへの巡歴を記した『大唐西域記』、そして、日本の遣唐使 円仁(794~864)が唐での10年間の仏跡巡礼を記録した『入唐求法巡礼行記』を合わせた三書を指す。
「世界三大旅行記」のうち、時代が最も新しいものがマルコ・ポーロの『東方見聞録』になるが、地誌の構成をとる『大唐西域記』や、日付や状況を克明に記してある『入唐求法巡礼行記』に比較して、『東方見聞録』はあまりにも記述が曖昧かつ誇張してある。当時の欧州ではアジアの情勢は一般に知られていなかったので本書が熱狂的に受け入れられたにせよ、現在読む我々からは、悪く言えば「眉唾」、良く言えば、旅行記というよりもファンタジーノベルという感が強い。実際、歴史書を研究する学者たちのなかにも、マルコ・ポーロは実際には中国の地さえも踏んでいないと主張する研究者もいる。
誇張に次ぐ誇張、大げさな表現
マルコ・ポーロ(1254~1324)の生年は、モンゴル人による中国の征服王朝の時期と重なる。モンゴル帝国の世祖フビライは1279年に南宋を亡ぼして中国を統一支配し、国号を元とした。元による中国支配は90年間続いた。
『東方見聞録』では、父と叔父に連れられたマルコ・ポーロの三人がフビライから寵愛されて重用されたことになっている。帝国の三人の貴族がマルコ・ポーロら三人を連れて海路で帰国することを思いつき、船出することになった。その時の状況は次のように書かれている。
「(フビライは)フランス、イギリス、スペイン等のキリスト教国の王にあてた手紙を託した。船は13隻で、いずれも四本マスト、12の帆を張れるものが用意された。そのうちには乗組員250~260人のもの(船)が少なくとも4~5隻はあった」
インド洋を航海する商船についても同様の誇張が見られる。
「インド洋を航海する商船についてのべよう。これらの船はもみの木でつくられ、甲板は一つだが、船室は50~60あって、商人はおのおの1室を占有して、気ままにふるまえるようになっている。・・・大きな船には200~300人の乗組員がおり、非常に大きいから、一艘で5千~6千俵の胡椒を運べるし、・・・大きな船は数艘の伝馬船をのせているが、伝馬船もなかなか大きく、胡椒を千俵つむことができ、50~60人、ときには百人の水夫がのりこめる」
日本と元寇についての記述
『東方見聞録』では、日本は以下のように書かれている。
「チパング(日本)は東海にある大きな島で、大陸から2400キロの距離にある。住民は色が白く、文化的で、物資にめぐまれている。偶像を崇拝し、どこにも属せず独立している。黄金は無尽蔵にあるが、国王は輸出を 禁じている。・・・この島の支配者の豪華な宮殿について述べよう。ヨーロッパの教会堂の屋根が鉛でふかれているように、宮殿の屋根はすべて黄金でふかれており、その価格はとても評価できない。宮殿内の道路や部屋の床は、板石のように、四センチの厚さの純金の板をしきつめている。窓さえ黄金でできているのだから、この宮殿の豪華さは、まったく想像の範囲をこえているのだ」
そしてこの無尽蔵な黄金を目当てに、元の大ハーンが大艦隊を派遣して征服を試みたが、都市や城砦は占領できないうちに嵐が大艦隊を襲って多くの船が難破したとしている。
ここまでは正しいのだが、そのあとの経緯が空想である。無人島に難破した元の将兵を攻めるためチパングは軍船を派遣したが、元軍は逃げると見せかけてチパングの軍船を乗っ取ってしまう。そして再度チパングに侵入すると、今度は本島の首都を占領してしまい、美しい婦人だけ残して住民全部を追い出してしまったと書いている。首都を占領した元軍は再度包囲されて負けるとしているが、この一節をもってしても、遥か遠方で聞きかじりをもとに空想で膨らませたという感はぬぐえない。
このような一大ファンタジーノベルとも言える「旅行記」が出来上がった背景には、マルコ・ポーロは帰国後に捕らわれの身となり、獄中で知り合った物語作家のルスティケロがポーロから聞き書きをして空想を膨らませたという事実がある。
ノンフィクションとして読むと興味が失せるが、最初からファンタジーノベルとして読むならば、壮大で面白いストーリーなのかもしれない。
現代教養文庫 Kindle版
上記で紹介したこの「現代教養文庫Kindle版」の他にも、平凡社からも出版されていますが、平凡社のほうは、以下のように第1巻と第2巻とに分かれています。また、平凡社からは文庫本でも入手可能です。ただし、文庫本は、Kindle版よりもかなりお値段は高くなります。
********************************
平凡社 Kindle版(第1巻)
平凡社 Kindle版(第2巻)
********************************
平凡社文庫本(第1巻)
平凡社文庫本(第2巻)