『日本の色辞典』 吉岡幸雄 著
- 著者: 吉岡幸雄
- 出版社: 紫紅社
- 発行日: 2000年6月20日
- 版型: Kindle版、 単行本
- 価格(税込): Kindle版: ¥3,449円、 単行本: ¥3,630円
日本の伝統色を植物染料で再現した力作
本書では、日本の伝統色と外国から伝わった色と、合わせて四百数十種類の色が、三百頁にも及ぶ全ページ・カラー写真で掲載されている。そのうちの日本の「伝統色」209種類は、一部を除き、すべて天然の染料で絹(シルク)の布を染めあげ、もしくは、天然の顔料(岩絵具)を和紙に塗って色見本を再現している。本書は、この気の遠くなるような作業を経て実現した書籍であるがゆえに、きわめて貴重なのである。
著者の吉岡幸雄(よしおか さちお 1946~2019)は京都生まれで、早稲田大学第一文学部を卒業後、美術工芸図書出版「紫紅社」を設立した。実は、京都市伏見区の吉岡の生家は、江戸時代から続く染屋で、父の吉岡常雄は染色研究で大阪芸術大学教授もした人だったという。天然の染料で絹布を染めあげたり、天然の顔料を和紙に塗って色見本を再現するという地道な現場作業から始まったこの本の成立の背景には、吉岡のそのような門地と血脈があったのである。
文字から想像の可・不可
本書における色の分類は、次のようになっている。
- 赤系の色
- 紫系の色
- 青系の色
- 緑系の色
- 黄系の色
- 茶系の色
- 黒・白系の色
- 金・銀系の色
本書における色の分類は、上記の通りになってはいるが、本書に登場する「伝統色」のなかには、文字をみて色が想像できるものもあれば、色の系統は文字から想像できても微妙にわからないものもあるし、また、文字から色がまったく想像できないものもあると思った。すなわち、素人である私からみた次のような分類である。
- 文字をみて色が想像できるもの
- 色の系統は文字から想像できても微妙にわからないもの
- 文字から色がまったく想像できないもの
- 「文字をみて色が想像できるもの」 としては、次のようなものがある。
「桜色: さくらいろ」、「曙色: あけぼのいろ」、「深紅: ふかきくれない」、「杜若色: かきつばたいろ」、「銀色: ぎんいろ」、「金色: きんいろ」、「菜の花色: なのはないろ」、「緑青色: ろくしょういろ」、「柳色: やなぎいろ」、「柿色: かきいろ」、「小豆色: あずきいろ」、「羊羹色: ようかんいろ」
・・・・・上記の色は、文字からその色がだいたい想像できる。
2. 「色の系統は文字から想像できても微妙にわからないもの」 としては、次のようなものがあるだろう。
・「珊瑚色: さんごいろ」; 珊瑚には獲れた水深によって、真っ赤、ピンク、真っ白なものがある。どの色なのか微妙だろう。珊瑚色は、淡いピンクに近い。
・「躑躅色: つつじいろ」; ツツジにも赤、ピンク、白と色がいろいろある。微妙なところだが、躑躅色はショッキングピンクを淡くした感じに近い。
・「褐色: かっしょく」; 「褐色の肌」などと使われたりするので日焼けした肌を思い浮かべる方も多いだろうが、「褐色」とは「青黒」とも呼ばれ、紺色に近い色である。
3. 「文字から色がまったく想像できないもの」 としては次のものがある。
・「半色」; 文字からはまったく想像がつかないが、「半色」は紫色である。
・「蘇芳色: すおういろ」; 「蘇芳」とは南洋に生育するマメ科の樹木の芯からとれる色素といい、「蘇芳色」は赤茶色である。
・「今様色: いまよういろ」; 「今様色」は、ショッキングピンクに近い。躑躅色(つつじいろ)よりも色が濃い。
・「苦色: にがいろ」; どんな色がにがいのか、これもわからない。「苦色」は、黄土色である。いわゆるカーキ色に近い。
・「納戸色: なんどいろ」; これも全く想像がつかない。「納戸色」は、濃いめの青色である。
本書はただ眺めているだけでも美しい色色に心がなごまされる。
平安時代の宮廷の女たちは、いわゆる「十二単(じゅうにひとえ)」のような様々な色の衣裳を重ねた独特のファッションを競っていた。この色をかさねて着ることを、「襲の色目(かさねのいろめ)」と呼び、春夏秋冬の四季それぞれの時季においてどんな色をかさねるかが基本的な決まり事としてあった。昔より日本の伝統色が豊富だったのは、それはまさしく日本の自然の豊かさと多様性、そして四季の気温と湿度の激しい遷移を反映したものなのだろうと思える。
本書著者の吉岡幸雄氏は、去年(2019年)10月に心筋梗塞で急逝された。日本の伝統文化を自ら引き継ぎつつ、また自ら発信してくれた吉岡氏。惜しい方をなくした。吉岡氏の冥福を祈りながら、筆をおく。
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