国際政治 歴史

アメリカ史の背後にあり続ける2つの命題

2020年4月11日

アメリカ史の真実 なぜ情容赦のない国が生まれたのか』 C・チェスタトン 著,  中山 理 訳,  渡部昇一 監修

  • 著者: C・チェスタトン 著,  中山 理 訳,  渡部昇一 監修
  • 言語: 日本語版
  • 出版社: 祥伝社
  • 発行日: 2011年9月15日
  • 版型: 単行本
  • 価格(税込): 単行本:2,200円

 

植民地 = 中世の記憶の喪失

本書は正当派のアメリカ史の本である。副題には「なぜ情(なさけ)容赦のない国が生まれたのか」と、「監修」の渡部昇一氏が付記してはいるものの、本来は、そういう意図で書かれた本ではなく、繰り返しになるが、きわめて正統派の米国史の本である。

たとえコロンブス本人は眼前の諸島群をインドの一部だと信じこんでいたにせよ、歴史上はコロンブスが新大陸を発見したと位置づけられている。そして、コロンブス当人は、ルネサンスの息吹で満帆になって長い航海に出た。本書では、コロンブスが背負っていたルネサンスの精神こそがアメリカ文明の起源だとしている。ルネサンスから始まったということは、すなわち、中世の記憶に欠けているということであった。中世の古めかしい騎士道精神は、新大陸には存在しない。これを以って日本の武士道精神が第二次大戦でそれに相当する騎士道精神が欠如した米国と戦うことになったと考えた渡部昇一は慧眼である。

イギリス植民地の中にあったのは、生き生きと膨らむ古代ギリシア・ローマの異教の記憶であると、著者のチェスタトンは述べている。なぜならば、最古のイギリス植民地が誕生したのは、異教の記憶を求めて熱狂していた時代だったからだとしている。

そして、こういったマインドセットの中で再び頭をもたげたのが、「野蛮人には人間の命が宿らない」とする露骨なまでの異教的反感だったとしている。それゆえ、ヨーロッパ人によって開放された(「解放」ではない)これらの新境地では、ただちにあの制度が棺桶の中から復活した。

あの制度とは、「奴隷制」である。

本書ではコロンブスが出帆した動機が「タタール地方のハーンをキリスト教徒に改宗させる」ことだったとしているが、コロンブスは奴隷商人だったという説もあり、私(書評者)は後者のほうが正しいと思う。

 

冒険好きで放浪癖のイギリス人

イタリア出身というコロンブスが発見した新大陸にはヨーロッパから多くの国が植民地化を目指して訪れたが、イギリスが新大陸を支配するようになったそもそもの大きな理由は、イギリス人に放浪を好む本能があったからだと著者は言う。イギリス人の船乗りの仕事は、私掠船で各地を回ってはスペインの海上貿易を妨害することだった。スペインはそれを海賊と呼んだ。さらに起業家精神に満ちていたイギリス人ローリーは、東海岸のチェサピーク湾に植民地ヴァージニアを開拓した。

ハドソン川の河口域には最初スウェーデン人が入植したが、やがてオランダがそこを支配して「ニューアムステルダム」と名付けた。しかし英蘭戦争の海戦でオランダ海軍がイギリス海軍によって壊滅させられると、ニューアムステルダムはイギリスに割譲された。イギリスはその場所をヨーク公の名にちなんで「ニューヨーク」と名付けた。

フランスはルイジアナとカナダに大拠点を持って植民していたが、イギリスは軍事行動で新大陸からフランスの駆逐を図り戦争が起きた。英国海軍はフランスの海上通商路の遮断に成功し、補給がなくなったフランス軍は新大陸で敗退した。1763年のパリ条約でカナダはイングランドに割譲された。仏領ルイジアナは同盟の代償としてスペインに譲渡された。

 

合衆国の独立と2つの命題

イギリスは新大陸での競争国がいなくなって覇権が確立すると、今度は植民地からの収奪を企図するようになった。1764年、ジョージ三世の時の首相グレンヴィルは植民地での「印紙法」施行であらゆる物品に重税を課すと、植民地では反英運動が巻き起こり、イギリス離脱と独立の運動が激化していった。合衆国はフランスの加勢もあって独立戦争に勝利する。

著者チェスタトンの主張は、合衆国が離脱独立の時に世界に向けて発表した「独立宣言」の原則が、その後のアメリカの物語を紡ぐことになったということである。チェスタトンは次のように書いている。

「アメリカの物語とは、これらの原則を実行に移す物語にすぎない・・・端的に言うと、テーゼは2つである。第1に、人間はあまねく平等であること、第2に、支配者と被支配者との関係の道徳的基盤を保障するのは契約であること」

私がこの書評の最初に言ったように、本書は、きわめて正当派の米国史の本である。「なぜ情(なさけ)容赦のない国が生まれたのか」という副題に惹かれて本書を読むと、違和感を感じるかもしれない。でも、その副題が間違っているというわけでもない。そう解釈することも可能だからである。とは言え、本書はその仮説を成立させようと企図されて書かれた本ではない。だからそのような副題は原語の英語では一切なく、日本語版でおそらく販促のために付けられた副題なのである。

本書は、コロンブスの新大陸発見からアメリカ合衆国の第一次世界大戦参戦までの歴史をカバーしている。米国精神がどのように涵養されてきたのかを概観するには、本当に素晴らしい本だと思う。

単行本 

 

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アメリカ人のマインドセットはどう造られたのか

 

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石川 雅一

石川 雅一

 東証ペンクラブ 会員。学校法人評議員。 元日本放送協会で国際報道に従事。アフガニスタン内戦、カシミール内戦、パンチャヤト大暴動( ネパール)、湾岸戦争、アメリカ航空宇宙局(NASA)、国連安全保障理事会、ニューヨーク市警、米国核廃棄物、ロスアラモス国立研究所、米国海軍、米加漁業紛争、京都の歴史文化伝統産業などを取材。国際機関アジア太平洋放送開発機構講師(JICA専門家)としてクアラルンプールでアジア各国の放送局のジャーナリストを育成指導。金融市場分析のテクニカルアナリストとして日本の全産業三千数百社の上場企業のテクニカル分析をダイヤモンド社で三季にわたって完遂。  早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程中途退学。早稲田大学大学院商学研究科専門職学位課程修士(研究科長賞受賞)。MBA( Le Cordon Bleu; Global Service Business, WBS)。Certified Financial Technician(CFTe Ⅱ)。 一級小型船舶操縦士、剣道初段、趣味は能楽。

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