『宮本武蔵 五輪書』 宮本武蔵 著, 鎌田茂雄 訳注
- 著者: 宮本武蔵
- 訳者: 鎌田茂雄
- 出版社: 講談社
- 発行日: 2017年11月1日
- 版型: Kindle版、 文庫版
- 価格(税込): Kindle版: ¥770-、文庫版: ¥1,155-
宮本武蔵が自らの戦術と心構えを伝授
『五輪書』(ごりんのしょ)は、江戸時代初期の剣術家 宮本武蔵が、無敵の剣術の奥義(おうぎ)を書き記した兵法書である。
宮本武蔵は、13歳の時から名高い兵法者に戦いを挑み、佐々木小次郎と決闘した29歳までの60回以上の戦闘において、一度も負けたことがなかった。
武蔵は1645年に静かに寂滅することになるが、武蔵はその数年前から、現在の熊本県熊本市の霊巌洞で本書を書き始めたと言われる。自筆の書は失われており、写本のみが残っている。
『五輪書』の「五輪」とは、仏教において、万物を構成する5つの要素(五大要素)のことで、具体的には、次の5つを指す。
- 地(ち)
- 水(すい)
- 火(か)
- 風(ふう)
- 空(くう)
これら、地水火風空の五輪は、それぞれ次の意味を表す。五輪それぞれの要素に、武蔵の定義も付加して示す。
- 地: 不動の大地 ・・・・・・「直(すぐ)なる道の地形を引きならす」
- 水: 動いてやまず器に形を合わせる柔軟性 ・・・・・・「水は方円(ほうえん)の器ものに随(したが)い」
- 火: 焼き滅ぼす力 ・・・・・・「火は大小となり・・・合戦の事」
- 風: 吹きわたる自由 ・・・・・・「風の巻として、他流の事を書顕(かきあらわ)す也」
- 空: 執着の無さ ・・・・・・「空(くう)といふ心は、物事のなき所、しれざる事を空と見たつる也」
軍人で仏教史研究者の著者
著者の履歴を見て、これほど宮本武蔵の著を訳すのに最適の人も少ないと私には思えた。
なぜならば、著者の鎌田茂雄は、軍人にして仏教史研究者であるからである。
鎌田茂雄(1927年~2001年)は、戦前、大日本帝国陸軍のエリート幹部養成のための陸軍幼年学校を経て陸軍士官学校に進んだが、終戦のため中途退学となった。その後は駒澤大学を経て東京大学大学院に進んで仏教学を研究した。軍人教育を経て戦場は踏まなかったものの、仏教を研究して東京大学名誉教授になった人である。
鎌田のこの経歴が、「神仏をたのまず」という兵法家の道を進み、その後に霊巌堂で座禅をして悟りの境地にいたったという武蔵の人生と、私のイメージの中で重複したのである。
武蔵の禅の精神
武蔵は晩年、霊巌堂にこもって座禅に没頭した。
武蔵が詠んだとして伝わる幾つかの歌を鎌田は例に挙げて、武蔵の禅の精神について述べている。それは、次のような歌だ。
乾坤(けんこん)を其儘(そのまま)庭に見る時は
我は天地の外にこそ住め
宇宙乾坤の広大無辺をそのまま自分の庭と見よとしている。だが、そのあとが凄い。仏者や禅師であれば、天地万物と自分は同体であると悟るのであろうが、武蔵の場合は、自分は天地の外に住んで、外から宇宙を観察すると言っているのである。
『五輪書』は、英訳されて、米国ではベストセラーになったこともあった。日本では、宮本武蔵の小説や映画は流行ったが、武蔵自身の著である『五輪書』がベストセラーにならないのは残念なことだと私には感じられる。私は剣道初段で、単に剣士の扉を叩いたにすぎないが、もし、毎日のように剣道に励んでいた中学校時代にこの書を読んでいたならば、剣技と人格と双方の形成にどれほど役にたったかと思うと悔やまれてならない。
五輪書 (講談社学術文庫) 文庫本
五輪書 (講談社学術文庫) Kindle版