『祇園歌集』 吉井 勇
- 著者: 吉井 勇
- 装丁: 竹久夢二
- 出版社: やまとうたeブックス
- 発行日: 2018年5月30日
- 版型: Kindle版
- 価格(税込): Kindle版: ¥216-
(iPadのKindleアプリ)
伯爵で祇園を愛した耽美派の歌人
上に挙げてある、iPadのキンドルアプリで表示した『祇園歌集』(ぎおん かしゅう)の表紙をご覧になって、「好い絵だなあ」と感嘆された方がいたなら、その方はお目が高い。
この本の装丁をしたのは、竹久夢二(1884年~1934年)である。本書は1915年(大正4年)に新潮社より発刊された。長いこと絶版になっていたが、2年前に、やまとうたeブックスからKindle版で再版された。
(iPadのKindleアプリ)
『祇園歌集』は、伯爵で耽美派の歌人であった吉井勇(1886~1960)の歌集である。祇園の花街での舞妓たちとの交流が歌われている。「かにかくに祇園は恋し寝るときも 枕の下を水のながるる」は特に有名な歌だ。京都祇園の白川のほとりに立つ歌碑をご覧になった方もおられると思う。
吉井勇は旧薩摩藩士だった吉井友実伯爵を祖父として、貴族院議員の息子として生まれた。
東京、鎌倉、高知猪野々の山中での隠棲、京都と居所は転々としたが、京都の祇園、その花街(かがい)をこよなく愛し、それを歌にした。
歌集の構成
章立ては5つの章で、その内訳は以下の通りである。
- 祇園
- 島原
- 嵐山
- 宇治
- 南地
上記の1から4までは京都の地名であるが、5の「南地」(なんち)は、大阪の花街である。
それぞれの章の中にも小見出しがあり、たとえば、祇園の中には、以下のような小見出しがある。
祇園、都踊(みやこをどり)、一力、雑魚寝、加茂川、千鳥、河原蓬、木屋町、舞姫、おれん、おとめ、萬龍、かづ榮、小光、一勇、鳥辺山、清水、円山、縄手、花見小路、白川、粟田口、一夜、春宵、夏の日、床涼み、秋の夜、炬燵、鐘、南座、四条橋、妓家小景、先斗町(ぽんとちょう)、京極、おもひで、機縁
称賛と批判
本書は、耽美派(たんびは)の歌人 吉井勇の代表作であり、祇園や島原や南地といった花街での舞妓や芸妓との交流を詠んでいて、文字通り、美にひたりふける歌風になっている。
それゆえ、その刹那(せつな)の美しさを称賛する人が多かった一方で、退廃的だという批判もあった。特に、『米国怖るゝに足らず』を出版して対米戦をとなえた赤木桁平からは、「撲滅すべき遊蕩文学」のひとつであるとして吉井勇は激しく論難された。とは言え、遊蕩文学は撲滅すべしと言った赤木自身はそれほど潔癖だったかというとそうでもなかったらしく、帝劇女優とのゴシップのタネにされたりしたという。赤木桁平は、終戦後は東京裁判によってA級戦犯とされた。
美しい瞬間
私は京都に行きたくても行けない時に本書を開いて吉井の歌をみる。そうすると、古都の光景が眼前に浮かんできて、鬱積された情緒がゆるやかに解放される気がするのだ。
たとえば、『祇園歌集』には、次のような歌がある。
狼藉(ろうぜき)と祇園の秋を吹きみだす比叡おろしよ鞍馬おろしよ
かなしみを棄てむと京に来(こ)しものを あはれやさらに得てかへりける
春の夜(よ)は踊(をどり)がへりの舞姫(まひひめ)のなかにまじりてわれもかへりぬ
加茂川(かもがは)に夕立(ゆふだち)すなり寝て聴けば 雨も鼓(つづみ)を打つかとぞ思う
本書は、京都好きの人にとっては、たまらない本だと思える。