『源氏物語 作中人物 事典』 西沢正史 編
- 著者: 西沢正史
- 出版社: 東京堂出版
- 発行日: 2007年1月20日
- 版型: 単行本
- 価格(税込): 単行本: 絶版
『源氏物語』のあらすじ・概要・人物ドラマの解説
本書は、源氏物語のあらすじ、概要、登場人物の設定や性格(キャラクター)や人物の間でかもされるドラマなどを微に入り細を穿つように解説した事典である。研究者のみならず、『源氏物語』好きの人間にとっては、たまらない一冊である。
私(書評者)が本書を買おうとする時に、思い浮かんだ他書があった。それは、『平安時代史事典(全三巻)』のことであった。京都と平安時代に惹かれて夢にまでそれを見るような自分にとっては、『平安時代史事典』は欲しいと思った時には既に絶版になってしまっていた。「西行」の研究家でもある私は、西行についての膨大な古書を日本全国の古本屋から取り寄せて研究していたが、西行がその大半を生きた平安時代後期の人物間の相関関係については、古代学協会が編纂した『平安時代史事典(全三巻)』を繰り返し参照しないわけにはいかなかった。手元に『平安時代史事典』があれば一番よかったのだが、入手できなかったため、国立国会図書館へのお百度参りを余儀なくされた。この時の経験から、『源氏物語作中人物事典』もおそらくはすぐに絶版になってしまうのではないかという感じがして、アマゾンで「注文を確定」をクリックしたのだった。案の定、本書はその後、絶版となってしまった。「作中人物事典」などという小難しい題名を付けたのが仇になったのかなとも私は思ってはいる。単に『源氏物語事典』とシンプルな題名にしたほうがもっと遥かに売れたのではないかとも思うが、いずれにせよ、このような素晴らしい本が絶版になってしまうというのは悲しい限りである。本書が少なくともKindle版で再版されることを切に望む。
本書の内容と作中キャラたち
本書の目次をみると、章立ては、おおよそ、以下のようになっている。(実際の章名を簡略して表示。)
- 源氏物語各巻のあらすじ
- 主要な人物
- 脇役の人物
- 名場面集
「主要な人物」としては、光源氏、桐壷帝、朱雀帝、右大臣、頭の中将、夕霧、柏木、八の宮、薫、匂の宮、桐壷の更衣、藤壺、紫の上・・・他、合計30名が並ぶ。
「脇役」としては、冷泉帝、秋好中宮、式部卿の宮、髭黒、明石の入道、横川の僧都・・・など、やはり計30名が並ぶ。「なんでこの方が脇役なのか?」という意見が出たりすることもあるやもしれないが、ともあれ、こうした人物紹介はとても詳細でわかりやすい。
たとえば、「紫の上」の説明では、「紫の上の生涯」が3ページにわたって紹介され、次に、「物語における人物の位置・準拠」がある。「紫の上の生涯」と「物語における人物の位置・準拠」ではかなり重複するところがあるが、それは仕方がないと思う一方で、もう少し工夫のしようがあったのではないかとも思える。
そして、「人物に関する評価の歴史」があり、「人物の特色・鑑賞」が続く。
様々な面からもっと『源氏物語』を味わい尽くしたいと思うファンにとっては、楽しめる内容だと思う。
編集によっては大化けする可能性
本書は13人の大学教授・助教授・講師といったアカデミアの研究者たちが執筆した、学術書レベルのシリアスさを有する書籍だが、一般の『源氏物語』ファンも十分に楽しめる内容になっている。
一方で、もっと美術アーティストや漫画家や、風俗・衣装装束・建築・化粧などについての時代考証研究家も仲間に入れて「ビジュアル」な編集に力を入れたならば、(過去のことだけではなく、今後のことも含めて、)本書は、大化けする可能性、すなわちベストセラー化する可能性さえも秘めていると私には思える。
『源氏物語』をテーマ、モチーフにしたどれだけ多くの漫画がこれまでに多くの漫画家によって描かれてきたかということ、それらの作品がいずれも大人気を博してきたことを勘案すれば、それは自明の理だと思える。
本書は現在絶版になってしまってはいるが、単にこのまま本書をKindle化することも私は希望するが、そのようなビジュアルなアートを盛り込む形で文章を簡略化した形の新たな『源氏物語ビジュアル事典』の創造を切に希望する次第である。