『China's Influence in Japan』 Devin Stewart 著
- 著者: Devin Stewart
- 出版社: CSIS: Center for Strategic & International Studies(戦略国際問題研究所)
- 言語: 英語
- 発行日: 2020年7月23日
- 版型: PDFダウンロード
- 価格(税込): 無料
米CSISは世界第1位の防衛安全保障研究所
米国CSIS(Center for Strategic & International Studies: 戦略国際問題研究所)は、防衛問題・安全保障問題分野で世界第1位にランキングされているアメリカの「超党派(bipartisan)」の非営利の国際政策研究所である。超党派・中道のCSISには共和党と民主党の双方の議員たちが密接に関係し、その政策立案にCSISの報告書を反映させている。
このCSISから先日、『China's Influence in Japan(日本における中国の影響力)』と題した英語報告書が出た。"Influence"とは、「影響力、感化力、影響を及ぼす人や勢力」といったような意味がある。良くも悪しくも中国共産党(CCP)の影響力を日本に及ぼそうと画策するドンであり、また、中国語風によく言えば、中国共産党の影響力行使を「工作」するという意味では工作員とも言えるだろう(中国語で「工作(ゴンズオ)」とは「仕事」という意味である)。そして、この報告書の中では、Toshihiro Nikai(二階俊博)とTakaya Imai(今井尚哉 : 内閣総理大臣補佐官)の名が実名で名指しされているのである。
著者のDevin Stewart(デヴィン・スチュアート)は、カーネギー国際問題倫理委員会のシニアフェローであり、アジアプログラムのトップである。スチュアートはニューヨークのコロンビア大学で国際問題の講義も行っている。
本報告書の目次(Contents)は、次のようになっている。
- China's Tactics to Influence Japan (日本に影響力を及ぼす中国の戦術)
- Resilience and Vulnerabilities: Traits Unique to Japan (弾力性と脆弱性: 日本独特の性質)
- Responses: Lessons from Japan's Experience (反応: 日本の経験からの教訓)
- Conclusions: Japan as a Negative Case of CCP Influence (結論: 中国共産党の影響という悪い事例としての日本)
この構成はさすがに極めてよく練られていると、スチュアートのキレを感じた。まず中国の戦術、次に日本の特性、そして日本の事例からの教訓を述べている。結論は、日本は「悪い事例(Negative Case)」である。
中国共産党による対日工作
スチュアートは、コロナウイルス(Covid-19)で延期された習近平の日本国賓訪問は、潜在的なリトマス試験(potential litmus test)であると述べている。リトマス試験は言うまでもなく、酸性かアルカリ性かを判定する試験であるが、そのリトマス試験紙は青色の紙と赤色の紙がある。酸性の液体をつけると青色の紙が赤色に変化し、アルカリ性の液体をつけると赤色の紙が青色に変化する。自民党の場合はおそらく青色の紙なのだろう。習近平国賓訪日に賛成すると赤色(五星紅旗の色)に変わるということである。
中国共産党は、中国武漢に発したコロナウイルスを対日本懐柔戦術として利用したとスチュアートは述べている。国営通信社によって日本が中国にマスクや防護服を援助したことを美談として流した。そう言えば、そうした流れの中で、日本国内で自民党からの中国援助の支援金を党所属議員全てから払わせると二階幹事長が当初まとめたが、青山議員などからなぜ強制的に「全員なのか」と迫られて「有志の議員から」の支援金に変更したことがあった。
スチュアートは、二階派(LDP’s powerful Nikai faction)の秋元司が2019年12月にIR汚職で370万円(3万3千ドル)を中国の政府系企業から賄賂として受け取り逮捕されたことにも触れている。
本報告書の中で実に、"Nikai"(「二階」)という文字が参照文献も含めて、11回も出てきた。二階派は「二階-今井派(“Nikai-Imai faction”)」とも呼ばれているとスチュアートは言う。今井とは、Takaya Imai(今井尚哉 : 内閣総理大臣補佐官)のことである。元経産官僚の今井は、安倍首相に対して、中国にもっとソフトなアプローチを採るように説得しつづけてきたという。
二階幹事長は2019年4月に習近平と中国で会合し、二階の地元和歌山の動物園に5頭のパンダを中国から誘致したとしている。そして、米国の反対にもかかわらず、中国の一帯一路構想(BRI)に日本が協力すると唱えたのだとスチュアートは言う。二階はまた、日本の経済援助ODAを中国に対して行うことをずっと唱導してきた。OECDによれば、ODAは「発展途上国に対する政府援助」なのであるが、日本の中国へのODAは1979年から2018年までほぼ40年間にわたり、中国が経済大国になったのちもなぜか続けられてきたと、スチュアートは二階による不自然な政治誘導を指摘する。
中国により浸食される日本
日本の北海道は中国人旅行客にとって人気の目的地だが、中国人は北海道における最大の外国人地主となってきた。自衛隊基地の周囲でさえも広大な土地が中国人によって買収されているという。たとえば米国の場合は、軍事基地やエネルギー施設の近辺の土地は中国人が買うことができないように連邦政府の外国人投資委員会によって規制されているが、日本では外国人による土地への投資規制が欠如しているし、自衛隊や原子力発電所施設近辺の中国人による土地買収のデータさえも日本は持っていないかもしれないとスチュアートは言う。
報告書の結論でスチュアートは、日本は中国共産党の工作(influence activities)に対して感染しやすいという意味で、悪い事例(negative case)であるとしている。
しかしながら、日本政府は隣国中国にソフトな対応を続けながらも、その一方で日本企業が中国から脱出するための基金をつくったりといったしたたかな面もあるにはあると、スチュアートは言う。
米国と中国という対立を深めつつある両大国の狭間でその両国と建設的な関係を維持するためには、日本は一本の細い線の上を歩かなければならないとスチュアートは報告書を締めくくっている。
自由世界の結束と全体主義への対決を叫ぶ米国
本報告書は、米国のポンペオ国務長官が"Communist China and the Free World's Future"(「中共と自由世界との未来」)という衝撃的な演説をしたのと同じ7月23日に出された。
ポンペオは言った。
"we have to keep in mind that the CCP regime is a Marxist-Leninist regime. General Secretary Xi Jinping is a true believer in a bankrupt totalitarian ideology."
「中国共産党はマルクスレーニン主義の体制であることを我々は覚えておかなければならない。習近平総書記は破綻した全体主義イデオロギーの明白な信奉者である」
"We know that the People’s Liberation Army is not a normal army, too. Its purpose is to uphold the absolute rule of the Chinese Communist Party elites and expand a Chinese empire, not to protect the Chinese people."
「人民解放軍は普通の軍隊ではない。その目的は中国共産党エリートたちの絶対支配を固めて中国帝国を拡大することであって、中国の人民を守るための軍隊ではない」
”But, changing the CCP’s behavior cannot be the mission of the Chinese people alone. Free nations have to work to defend freedom. It’s the furthest thing from easy.”
「中国共産党の態度を変えるのは中国人民だけの使命ではない。自由世界の諸国は自由を防衛するために働かなければならない。それは決して容易なことではない」
全体主義(totalitarian ideology)の中国に対して、決然として自由を守るために自由世界諸国の団結を呼びかけた米国、今や、日本は二股をかけた外交からの脱却を同盟国米国から強烈に突きつけられている。 <## 終わり>
* 次の画像をクリックすると、CSISの英文報告書”China's Influence in Japan”に飛びます。非営利機関のため閲覧無料となっています。
* 次の画像をクリックすると、米ポンペオ国務長官の演説"Communist China and the Free World's Future"のトランスクリプト(アメリカ国務省)に飛びます。