『カテゴリー・イノベーション』 D・A・アーカー 著, 阿久津 聡 監訳, 電通ブランド・クリエーション・センター 訳
- 著者: D・A・アーカー 著, 阿久津 聡 監訳, 電通ブランド・クリエーション・センター 訳
- 言語: 日本語版
- 出版社: 日本経済新聞出版社
- 発行日: 2011年11月24日
- 版型: 単行本
- 価格(税込): 単行本:¥3,080円
「カテゴリー・イノベーション」
本書を手に取って、少なくとも私は少なからず戸惑いを感じた。それは、本書の日本語書名(タイトル)の付け方が、少なからず英語原題と乖離していたからである。本書の原題は、"Brand Relevance"である。
でも、「電通ブランド・クリエーション・センター 訳」という訳者を見て、ああ、なるほどとも思った。広告のプロが自分たちの広告用語知識をもとにして、同じく広告業界や広告出稿会社の人間に売るのに、わかりやすい名前を考えたとしたならば、「カテゴリー」とつけるのは、とてもありえそうだなと感じたからである。
確かに、本書にはカテゴリーの話はもちろん載っているし、「ブランド・レレバンス」という概念が「カテゴリー・イノベーション」の基礎となる重要な考え方だと冒頭には述べてある。訳者や監訳者も原著者に翻訳タイトルの変更について了解をとっているはずだと私は信ずるが、ただ、このタイトル変更が功を奏したかについては別の問題だとも思える。
タイトルの件は別として、本書は実に興味深く面白い本である。最初の事例が日本のビール業界の「アサヒスーパードライ」のケースや「キリン一番搾り」の事例から始まるので、初学者や一般の人にとっても、特に日本人にはきわめてとっつきやすい本だろうと思える。
ブランド・レレバンスとは何か
アーカーによると、ブランドは、消費者のブランドの購入には、次の4つの段階が存在するという。
- カテゴリー選択
- 候補ブランドの選択
- 購入ブランドの決定
- ブランド体験
1の「カテゴリー選択」の「カテゴリー」とは、いわば、商品分類の範疇(カテゴリー)による区分けのことである。自動車で言えば、「セダン」、「ミニバン」、「SUV」などがある。SUVとはスポーツ・ユーティリティー・ビークル(Sport Utility Vehicle)の略である。ところが、消費者は「コンパクト・ハイブリッドカー」といった範疇も考慮したりする。つまり、消費者が商品を選択する段階で頭のなかで考える分類とその範疇をどのように創造していくかが重視されなければならない。
アーカーは、以下の2つの条件が満たされたときにブランド・レレバンスがあると定義している。
- 対象となるカテゴリーやサブカテゴリ―(カテゴリーの下位にある小さな区分け)が選ばれ、そのカテゴリーに顧客ニーズがあって、そのカテゴリー自体に属性や使用法やユーザー層や商品特性によって定義できること。
- そのブランドが消費者の最初のスクリーニング(取捨選択)に生き残ること。
"relevance"(レレバンス)とは、「関連性」という意味であり、書評者流にぶっちゃけて言えば、カテゴリーとの「ひもづけ」のことである。
ただし、ブランド・レレバンスの有無は、必ずしも白黒はっきりつくとは限らないし、時にはレレバンスに幅があったり、あいまいだったりすることもあると、アーカーは言う。そして、どのブランドにレレバンスがあるのかについての不確実性は、カテゴリーやサブカテゴリ―の定義が明確であるかどうかに左右されるとしている。なお、繰り返しになるが、カテゴリーやサブカテゴリーは、ブランドではない。ブランドを包含する範疇である。
本書は、わかりやすい実例ケースに富み、米国では、「ブランド・レレバンス」の重要性について説明したアーカーの名著とされている書籍である。それだけに、私は原書名にこだわったのだったが、確かに「カテゴリー」を意識するとわかりやすい概念かもしれない。本書は、ブランドや広告に携わる人々はもちろんのこと、商品開発やマーケターにとっても必読の書だろう。