『ブランド・ポートフォリオ戦略』 D・A・アーカー 著, 阿久津 聡 訳
- 著者: D・A・アーカー 著, 阿久津 聡 訳
- 言語: 日本語版
- 出版社: ダイヤモンド社
- 発行日: 2005年7月14日
- 版型: 単行本
- 価格(税込): 単行本:4,180円
「ブランド・ポートフォリオ」とは何か
「ブランド・ポートフォリオ」とは何か?
それを考えるには、まず、「portfolio(ポートフォリオ)」という言葉について見てみる必要がある。
ランダムハウス英語大辞典によれば、”portfolio”とは、"a flat, portable case for carrying loose papers, drawings, etc."とある。すなわち、紙や図面や書類を持ち運ぶための薄べったいケースのことである。ここから、ポートフォリオは、保有する証券や債券などの総体を指す言葉となった。(the total holdings of the securities, commercial paper, etc., of a financial institution or private investor.)
つまり、ブランド・ポートフォリオとは、ある企業が持つ複数の、もしくは幾つかの、あるいは場合によってはたくさんのブランド群の総体を指す。投資企業が保有する多銘柄の証券を管理して、取捨選択して銘柄を増やしたり減らしたりし、または新たな銘柄を追加したり廃棄したりして収益の向上を求めていくのと同じように、複数のブランドを保有する企業も、それらのブランド群をうまく管理して収益向上を目指していかなければならない。本書はそのブランド群の運用の方法について述べた本である。
ブランド・ポートフォリオの6つの次元
アーカーは、ブランド・ポートフォリオには次の6つの次元があるとしている。
- ブランド・ポートフォリオの構成
- 製品やサービスの定義
- ブランド範囲
- ポートフォリオの役割
- ポートフォリオ構造
- ポートフォリオ・グラフィクス
上記の項目を簡単に説明すると以下のようになる。
- ブランド・ポートフォリオの構成: ブランドのポートフォリオは、マスター・ブランド、エンドーサー、サブブランド、ブランド差別化要素、共同ブランド、ブランド活性化要素、コーポレート・ブランドといったような様々な要素で構成されている。
- 製品やサービスの定義: それぞれの製品やサービスは、マスター・ブランド、エンドーサー・ブランド、サブブランド、ディスクリプタ―、製品ブランド、傘ブランド、ドライバーといったような種々の定義に分類されるべきである。
- ブランド範囲: ポートフォリオ内のそれぞれのブランドが有する影響範囲と文脈関係のこと。
- ポートフォリオの役割: それぞれのブランドは組織単位に点在する個々のものとして扱うべきではなく、経営によって資源の最適配分がコントロールされなければならない。
- ポートフォリオ構造: それぞれの構造は互いに関係しあっている。顧客に複雑さや混乱を与えないように、ブランド間のシナジーを生み出すように明確に構造をコントロールしなければならない。
- ポートフォリオ・グラフィクス: さまざまなブランドで使われる視覚的な表現方法(グラフィクス)は、それぞれのブランドの意味合いを明確にして、しかも、ブランド同士の混合や混乱を避けるように運用されなければならない。
ブランド論の巨匠アーカーによる鵜飼いの書
本書を読んで私(書評者)は、本書はブランド理論の巨匠アーカーによる「鵜飼いの書」だと思った。
たくさんの鵜(う: ブランド群)のすべてを、一人の鵜匠(うしょう: ひとつの企業)が、紐でつないで全部をうまくコントロールしながらアユ(収益)を獲らせている。そんな風に私は思い描いたのだった。
本書は428ページの分厚い単行本で、かなり読み応えがあるし、何度開いても新たな発見があるような多くの知見に満ち満ちている。企業のブランド管理者はもちろんのこと、ありとあらゆる業種の企業経営者にとっても手に取るべき本だと思える。
単行本
『ブランド論-無形の差別化を作る20の基本原則』 単行本