『聖書の英語 現代英語を読むための辞書』 バーバラ・片岡, 西尾道子 著
- 著者: バーバラ・片岡, 西尾道子 著
- 出版社: サイマル出版会
- 発行日: 1982年5月
- 版型: 単行本
- 価格(税込): 単行本: 絶版
一流メディア英文に多用されている聖書英語
本書の表紙カバー写真には、米国の一流とされるメディア雑誌が、「エデンの園」の絵を中心にサークル状に並べられている。それらのマガジンは、"NEW YORKERS", "Saturday Evening Post", "Woman's Day", "TIMES", "Newsweek"といったものだ。こういった米国の一流メディア雑誌が聖書英語を多用しているのだということをこのカバー写真は示しているのだろう。本書では、新聞、雑誌、単行本で、キリスト教の聖典の表現やテーマがどのように一般記事に使われているかを、旧約聖書からの実例をあげて説明している。
ふたりの共著者は「まえがき」で、西洋文学にはテーマを聖書からとったものが多いと述べている。たとえば、カインとアベル兄弟の確執とアベルの殺害というテーマをもとにして、ジョン・スタインベックの『エデンの東』が書かれたという。映画のジェームス・ディーンを思い出す日本人は多いが、この作品から聖書を思い浮かべる日本人はかなり少ないのではないだろうか。
本書は、聖書の様々なテーマによって、次のように章立てられている。
- 創造: Creation
- 罪悪感: Guilt
- 誘惑: Temptation
- 罰: Punishment
- 障害と艱難(かんなん): Obstacles and Adventures
- 祝福、報い、宝: Blessings, Rewards, Treasures
- 契約、権威:Covenant-Authority
- 知恵 ━ 愚かさ: WisdomーFolly
- 生活の糧(かて): Staff of Life
- 生活の知恵 ━ 伝統: Individualismーtradition
日常に多用される聖書の言葉
本書には、聖書に出てくる86の単語やフレーズが収載されている。それらのうち、目につくものだけ10個を挙げると以下のようなものである。和訳はあえて、あとから出すので、どれだけ訳せるかみてほしい。
- Genesis
- Sabbath
- What Hath God Wrought
- Fig Leaf
- Adam's Apple
- Seven Lean Years
- Stumbling Block
- At Wit's End
- Covenant
- Wherewithal
聖書用語の一般記事中の使用例
『スミソニアン』"Sumisonian”(1980年6月号)の次のような記事を著者は引いている。
"July, then, should serve as a time to remind ourselves that the pursuit of peace is a weapon and not a broken reed."
この文の内の、"broken reed"「折れた葦(アシ)」というのが聖書の言葉なのだという。
旧約聖書「列王紀下18:21」に原文が次のようにあるという。
"Behold, you are relying now on Egypt, that broken reed of a staff, which will pierce the hand of any man who leans on it. Such is Pharaoh king of Egypt to all who rely on him." (Ⅱ Kings 18:21)
「今あなたは、あの折れかけている葦のつえ、エジプトを頼みとしているが、それは人が寄りかかる時、その人の手を刺し通すであろう」
ちなみに、"July, then, should serve as a time to remind ourselves that the pursuit of peace is a weapon and not a broken reed." の訳は、次のように書かれている。
「7月は、平和の追求が武器となりうるものであって、頼りにならない弱いものではないことを思いおこさせる時になるだろう」
それでは、上記の言葉の答え合わせは以下のとおりである。
- 創世記
- 安息日
- 神のなすところ
- いちじくの葉
- のどぼとけ(喉仏)
- 7年の飢饉
- つまづきの岩
- 途方にくれる
- 契約
- 方途
ちなみに、経営学では、ventureとかstartup company(ベンチャービジネスや新規事業)の分野のひとつの概念として、"valley of death"「死の谷」という言葉がある。これは、ベンチャービジネスや新規事業は、成長軌道に乗る前の段階で、経営的に非常に苦しい局面があり、そこで挫折する企業が多いというような意味である。私は、Death Valleyというのがカリフォルニア州にあるので、ベンチャービジネスが多く存在するのもカリフォルニア州なので、その地のイメージから付けたのだろうと思っていたが、本書を読んで、聖書に"Valley of the Shadow of Death"「死の陰の谷」(本書の表記)があるというのを知り、なるほど聖書の言葉だったのかと、目から鱗が落ちる思いだった。カリフォルニアのDeath Valleyも金鉱探索の男が名付けたということだが、こちらの地名もおそらくは聖書からの発想なのだろうと想像する。