『FREEDOM FROM FEAR』 AUNG SAN SUU KYI
- 著者: AUNG SAN SUU KYI (アウンサン・スーチー)
- 出版社: PENGUIN BOOK
- 言語: 英語
- 発行日: 1991年
- 版型: Paperback
- 価格(税込): 単行本: 絶版
アウンサンスーチーの栄光と汚辱
前回、「アウンサンスーチーの栄光と汚辱 その1」では、スーチーの父親アウンサン将軍が大日本帝国陸軍の「南機関」という特務機関によって南シナ海の海南島で養成されたビルマ独立の志士であったことに触れ、大戦末期の1945年6月にアウンサン将軍の娘として生まれたスーチーの来歴について述べた。
今回、「アウンサンスーチーの栄光と汚辱 その2」では、スーチーのエッセイ集である本書の概要について触れる。
ちなみに、なぜ私がこの書評のタイトルを「アウンサンスーチーの栄光と汚辱」という題名にしたのかという理由は、言わずもがな ではあるが、一応明確にしておくならば、まず、「栄光」とは、いくつかの意味がある。それは、英国から独立を勝ち得た英雄アウンサン将軍の栄光を血統として引き継いだ者である、民族独立の象徴としての「栄光」であり、また、1988年、ビルマ社会主義計画党議長のネ・ウィン将軍による独裁政治と経済悪化に抗議する市民デモ活動が高まっていた中でビルマに帰国して、市民から熱狂的に新しい時代を切り拓く政治家として期待され、首都の大寺院シュエダゴン・パゴダ前広場での街頭演説で、公称「50万人」の聴衆を集め得たという「栄光」であり、そして、軍事政権の圧力に屈しない民主派政治家として西側諸国から絶賛されて1990年にノーベル平和賞を受賞した「栄光」でもある。
そして、「汚辱」とは、時のソウ・マウン軍事政権によって、騒乱を煽り立てて国家秩序を乱した者として自宅軟禁(house arrest)された「汚辱」であり、ノーベル平和賞受賞後に巻き起こったミャンマー政府によるミャンマー西岸部のイスラム教少数民族ロヒンギャ(Rohingya)の人々を迫害弾圧するミャンマー国軍や警察などをし放題に放っておいた非人道的な政治家として非難された「汚辱」である。
実際、ロヒンギャの人々迫害に関するスーチーの「汚辱」の事例としては、以下のような出来事があった。
- 2017年9月: アウンサンスーチーのノーベル賞を取り消せという請願運動に36万人の署名が集まった。 その後、ノーベル財団(Nobel Foundation)は、授賞後の受賞者から賞の剥奪をすることは一切無いと否定。
- 2018年9月: カナダの下院はミャンマーのアウンサンスーチーに対する「名誉市民」の称号を剥奪することを全会一致で可決した。
- 2018年11月: スーチーとかつて蜜月関係にあった 国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、以前同団体(アムネスティ)が最高の栄誉褒章としてスーチーに授与していた「良心の大使賞」を、ミャンマーの事実上の指導者であるアウンサンスーチー国家顧問兼外相から剥奪すると発表した。
スーチーの21本のエッセイを集めた本書
本書は、アウンサンスーチーが英語で書いたエッセー集で、スーチーが1990年10月にノーベル平和賞を受賞したあと、1991年に発刊された。アウンサンスーチーの21本のエッセイをあつめたエッセイ集となっている。
本書に掲載されたエッセイは、以下の通りである。(拙訳)
- わたしの父
- わたしの国と民衆
- 植民地時代のビルマとインドにおける知的生活
- ビルマの文学とナショナリズム
- 民主主義の追求
- 恐怖からの自由
- "Boh"という言葉の本当の意味
- 最初のイニシアチブ(政治的発議)
- シュエダゴン・パゴダ前大集会での演説
- (政治的)目的(The Times紙のインタビュー掲載)
- 革命の視点
- アムネスティインターナショナル(国際人権救援機構)への2通の手紙
- 大使たちへの手紙
- 民主主義のための闘いにおける市民の役割
- バトルロイヤル(軍事政権とのサバイバルゲーム)
- 国連人権委員会への公開状
- 埃と汗
- 民族間連帯の必要
- 自由を欲する民衆
- 選挙への賛同
- 1991年のノーベル賞
21本のスーチー自身のエッセイの他に、スーチーについて賞賛する4人の文章が載せられている。
前回、「アウンサンスーチーの栄光と汚辱 その1」では、スーチーの父親アウンサン将軍が大日本帝国陸軍の「南機関」という特務機関によって南シナ海の海南島で養成されたビルマ独立の志士であったことに触れ、大戦末期の1945年6月にアウンサン将軍の娘として生まれたスーチーの来歴について述べた。
今回、「アウンサンスーチーの栄光と汚辱 その2」では、スーチーのエッセイ集である本書の概要について触れた。
次回は、エッセイの内容について軽く触れることとする。
<その3へ つづく>